テトラサイクリン歯とは
テトラサイクリンとは「テトラサイクリン系に属する抗生物質」のお薬のことで、テトラサイクリン歯はその沈着により生じる歯の変色症です。
永久歯の形が作られ始めるのは、中切歯・側切歯・犬歯・第一大臼歯は胎児期頃、第一小臼歯は出生時に、第二小臼歯と第二大臼歯は出生後8か月ごろに始まります。そして、歯冠は、第一大臼歯の3歳ごろから、第二大臼歯の8歳ごろにかけて順次完成します。この期間、すなわち出生直後から8歳頃までの間にテトラサイクリン系の抗菌薬を服用すると、形成途上の永久歯のカルシウムにテトラサイクリンが結合し、そうすることでテトラサイクリンは象牙質に沈着します。この沈着したテトラサイクリンが原因で、歯の変色をきたすと考えられています。テトラサイクリン歯は歯の内側から変色するため、内因性の変色症に分類されます。内因性の変色症を招く要因は他にフッ化物の過剰摂取などが挙げられます。あくまでも永久歯が萌出するまでの間にテトラサイクリンを服用した場合に起こるため、永久歯が全て萌出した後にテトラサイクリンを服用した場合は変色を起こすことはありません。
テトラサイクリンとは
歯の主成分はハイドロキシアパタイトというリン酸カルシウムの一種で構成されています。これはヒトの体の中で水やコラーゲンなどの有機物に次いで多く、テトラサイクリン歯の原因となるテトラサイクリン系の抗生物質はカルシウムと強力に結合する特徴があります。すると、象牙質の中で双方の物質が結合し歯の変色が起こります。更に紫外線を浴びることで酸化してより色が濃くなるのです。テトラサイクリンは菌の増殖を抑える働きがあり、皮膚感染症や気管支炎、喉頭炎、扁桃炎、膀胱炎などのさまざまな感染性疾患に用いられ、歯科でも歯周組織炎、歯冠周囲炎、上顎洞炎、顎炎、化膿性唾液腺炎など幅広くいろんな種類の菌に効果が見られることから、1970年代に多用されていました。しかし歯の着色やエナメル質の形成不全などの副作用が起こる報告があげられるようになり、妊婦さんやお子様への処方はやむを得ない状況を除き、避けられています。
テトラサイクリン系の薬剤は子供の頃、特に永久歯を形成している期間(12歳頃まで)に多量に摂取すると、永久歯のエナメル質の形成不全や歯の変色、一過性の骨発育不全を引き起こすということが分かっています。
着色の発生率
テトラサイクリン系抗生物質を投与された小児の3分の1に歯の着色がみられたという報告がありますが、ミノマイシンは小児発生率のデータはないようです。また着色の度合は、1回の投与量や服用期間、総投与量によって異なります。またテトラサイクリン系の1種であるミノマイシンによる着色は、服用期間が長いほど発生率が高く、3ヶ月の服用で約50%が発生するといわれています。テトラサイクリン系抗生物質を服用したからといって、必ずしもテトラサイクリン歯になるわけではないため、現在でも皮膚疾患などの処方に使用されています。処方された際には担当の先生から薬の副作用の説明をしっかり聞いたうえで、服用しましょう。
主なテトラサイクリン系の抗生物質
ビブラマイシン
主に皮膚科にて化膿したニキビの治療などで処方されることがあります。
ミノマイシン
慢性気管支炎や性病のクラミジアの治療薬の他に、ニキビの治療薬としても使用されます。
アクロマイシン
とびひ、おでき、床ずれなど皮膚感染症の治療に使われます。
レダマイシン
皮膚感染症や呼吸器感染症、耳鼻科感染症など幅広い範囲の感染症の治療に用いられます。
なぜ歯に色がつくのか
テトラサイクリンには蛍光粒子が含まれており、0歳から12歳までの歯を作られる時期に服用すると、歯の中に蛍光粒子が取り込まれ、象牙質に着色されます。また蛍光粒子はは紫外線によっても変色を起こすので萌出したての際には変色が気にならなくても、時間が経つにつれ徐々に気になるという方もいらっしゃいます。
服用時期によって異なる着色
テトラサイクリン歯は服用時期によって変色する部分が異なります。0~3才までに服用した場合は前歯の先端から真ん中にかけて色が変わり、3才~6才頃の服用は真ん中から根本まで色が変わってきます。
テトラサイクリン歯の色の分類
テトラサイクリン歯は変色のレベルのより、4つの段階に分類されます。
第1度:軽度のテトラサイクリン変色歯
淡い黄色、褐色、灰色で歯全体が変色している。シマ模様はない
- 第2度:中等度のテトラサイクリン変色歯
歯全体が変色しており、軽度よりも全体的に色が濃い
- 第3度:重度のテトラサイクリン変色歯
濃い灰色、青みがかった灰色をしており、シマ模様がある。
- 第4度:強度のテトラサイクリン変色歯
全体的に濃い着色が見られ、シマ模様もある。
テトラサイクリン歯の状態
服用したテトラサイクリン系の薬の種類や時期により、出てくる色や場所は異なります。色の種類は淡い黄色や濃いオレンジ色、または黒に近い部分もあり、シマ状に色が出てくる事があります。基本左右対称に現れますが薬の服用時期により、6歳臼歯に出ることも稀にあります。場合によりエナメル質不全を伴うこともあります。
エナメル質形成不全にも注意
エナメル質は歯の1番外側の部分で、丈夫な構造をしており、人体で1番硬いともいわれています。熱いものや冷たいものなどの刺激から歯の神経を守るほか、硬いものを噛む、象牙質を虫歯菌から守る働きなどをしています。エナメル質形成不全とは、歯ができてくる過程で歯の表面のエナメル質がうまく作られず、薄くなったり、脆くなってしまった状態のことです。原因は遺伝的要因の他に母親のビタミンなどの栄養不足、ホルモンバランスの異常、病気などの先天的な要因や、幼少期の栄養状態、生後1年程度の時期に熱性、あるいは発疹性の病気にかかると、エナメル質の形成が阻害される後天的な要因も考えられます。エナメル質を作るエナメル芽細胞の機能が何らかの原因で障害されたために起こることもあります。エナメル質形成不全の見分け方の1つは【歯の色】です。通常の歯とは異なり、黄色や茶色の変色があり、その範囲は点状のものから歯の大部分に及ぶものまでさまざまな形態があります。エナメル質形成不全自体はエナメル質が弱くなっている、という点には十分に気を配る必要があり、虫歯になりやすい状態のため、フッ素を塗布し歯質を強化したり、 間食制限もしくはしっかり時間を決める、毎日適切なブラッシングを行うといった虫歯予防対策を重点的に行う必要があります。
それに加えて、定期検診を受け、虫歯の予防を行っていく必要があるでしょう。また、生えて間もない歯の溝をフッ素の含まれた歯科用樹脂で埋めて虫歯を予防する「シーラント」と呼ばれる治療法も、エナメル質形成不全の対策として有効とされています。
テトラサイクリン歯の治療法
テトラサイクリン歯は歯の変色が1本や一部分ではないため、広範囲もしくは全体的な治療が必要となります。
補綴治療
この補綴治療とは歯冠を削り、人工の冠を歯冠全体を覆うようにかぶせて補う治療のことです。歯の変色やエナメル質形成不全が起きているテトラサイクリン歯を覆ってしまう治療法です。主に神経の治療後などに適用されます。歯を削り、型取りを行って作製します。保険診療では、メタル(金属)クラウンやレジンクラウンが一般的です。メタルクラウンは金属の強度があり、大臼歯に適していますが、銀色が目立つため前方の歯では使用されません。レジンクラウンは金属を含まないため、金属アレルギーの方でも利用可能で、歯に近い白さを持ちますが、透明感は天然歯とは異なります。また材質がプラスチックなので割れやすかったり、虫歯になりやすいというデメリットがあります。自由診療では、セラミックやジルコニアなどの審美性が高く、且つ耐久性のある素材が用いられ、金属アレルギーの方でも使えるなど、長期予後が良好というメリットがあります。こちらの治療法は削って被せるため、変色歯を希望の色味に改善することができますが、多数歯にわたる場合は害のない部分までも多く削ってしまうため積極的に治療を勧めていません。
ラミネートベニア
ラミネートベニアは、前歯部に適応される治療法で唇面の色調と形態を主な目的とし、薄いセラミックを唇面に接着する治療法です。審美性と同時に耐久性も高い治療法です。事前に仮歯を作り、歯の表面を一層削り、歯の型取りを行い削った歯の形を正確な模型し歯科技工士に作製していただきます。ホワイトニングは歯の色調の微調整が難しいのが難点ですが、ラミネートべニアの場合は事前に色見本をみながら自分の歯に合った色を選択することが可能です。
ラミネートベニアは、形成面をエナメル質にとどめなければならず、残存歯質が健全歯の60%以上確保されていることが不可欠です。しかし、支台歯が捻転・傾斜・位置不正している症例は、適用外となることもあります。セラミッククラウンと比較すると強度の面では劣りますが、削らないラミネートベニアはご自身の歯を大きく削る必要がなく、体に優しい審美歯科治療です。下の歯はラミネートベニアが適応ではないため、下の歯はホワイトニングのみまたはセラミッククラウンをお選び頂きます。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは歯の表面をレジンという歯科用プラスチックで覆っていく治療法です。小さなむし歯の治療で穴を埋める際や歯が欠けてしまった際に使われます。この方法は、多数の色調を重ね合わせることで、天然歯のような自然な色合いを再現することが可能です。特にラミネートべニアのように歯を削る必要がないため、歯へのダメージが少なくすむのがメリットです。しかしプラスチックを詰めるため、それ自体が変色したり、色の濃い食べ物をたべることで着色したりすることがあります。
ホワイトニング
歯のエナメル質に沈着した有機物の着色を分解して漂白する治療法がホワイトニングです。ホワイトニングでとは過酸化水素や過酸化尿素という薬剤を使用し、歯表面の着色汚れ(ステイン)を分解する働きや、歯の中の色素を漂白する「ブリーチング効果」で色素を分解することで、歯を白くしていきます。また、過酸化水素が歯表層のエナメル質を変化させ、光を乱反射させる「マスキング効果」によっても歯が白く見えます。
以前まで歯の内部に沈着した色は取り除くことができず、表面の汚れのみを取ったり白い素材で被せ物したりといった方法しか解決策がありませんでしたが、ホワイトニングは、歯の内面の着色までも取り除くことができるとのことで画期的な方法と、話題になりました。テトラサイクリン歯は軽度~中等度の場合、ホワイトニングで改善は可能ですが、それ以上の着色は難しくなります。また歯頚部と呼ばれる歯と歯ぐきの境界線部分はエナメル質が薄くその下の象牙質の色が透過されやすいため、濃い着色があるとその部分のホワイトニング効果はあまり期待できません。
テトラサイクリン歯に注意が必要な方
妊婦
乳歯がが生え始めるのは生後6か月頃からですが、歯のもととなる乳歯の歯胚は妊娠7週頃のまだ母体にいる時からでき始めます。そのためまだ妊娠中の段階で上記のようなテトラサイクリン系抗生物質の服用をすれば、お子様の乳歯は変色した状態で萌出してきます。ゆえに妊婦さんの服用は推奨されていません。
子ども(0~8歳頃)
0〜8歳頃は永久歯のもととなる歯胚の形成時期です。この時期にテトラサイクリン系抗生物質を服用すると先述の通り、歯のカルシウムと結合し歯が変色してしまいます。そのため8歳未満の小児の服用は禁忌です。永久歯は生えかわることがないため、変色した歯の色は治療を行わない限りとれることはありません。テトラサイクリン歯は服用してから数年後に発症するため、この因果関係になかなか気が付かない場合もあります。
テトラサイクリン歯と保険診療の関係
保険診療は病気に対する治療が対象のため、テトラサイクリン歯の治療は本来対象外となります。しかし、テトラサイクリン歯に虫歯が認められる場合、コンポジットレジンによる治療で保険診療で受けられ、保険診療の範囲内でテトラサイクリン歯の色調の改善効果も見込めます。
その他着色の種類
表面的な着色
健康的な歯の色調は個人差はありますが、一般的に黄色味がかかった白色をしており、永久歯に比べ乳歯のほうが明るいのが特徴です。歯の表面の着色は一般的に飲食(食べ物、コーヒー、お茶)タバコ等の嗜好品、、細菌などの色素が主な原因ですが、表面的な着色はクリーニングで取り除くことが可能です。
内面的な着色
内面的な着色の原因で代表的なものには、先ほど説明したテトラサイクリン系抗菌薬の他に、フッ化物の過剰摂取は歯の表面に白い斑点ができる事があります。また先天性ポルフィリン尿症という代謝異常を引き起こす疾患では赤く、胎児や新生児の溶血性疾患である胎児性赤芽球症では緑色になることがあります。
またむし歯や歯に強い力が加わったことにより、歯の神経が死んでしまった場合には暗い色に変色していくことがあります。個人差はありますが、加齢でも徐々に歯が変色していきます。これらの原因で歯の内部から変色してしまった場合は、クリーニングでは着色を取り除くことができません。そのため、内部からの着色が気になる場合は漂白やセラミック等で修復します。
最後に・・・
テトラサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬の沈着によって生じ、内側から変色してしまう、内因性の変色に分類される為、機械的歯面清掃などでは改善できません。しかしホワイトニングや補綴治療により自然の歯のように白くすることは可能です。テトラサイクリン歯か気になる方はお気軽にご相談ください。