歯周外科治療とは
歯周外科治療とは、名前の通り歯周組織に対して行われる外科治療のことで、歯周病を改善させる治療です。歯周外科治療は、歯周基本治療で改善が不十分であった場合に行われます。歯周基本治療は、歯を支えている歯槽骨に触れるような処置は行わず、歯石やプラークを取り除きます。
歯周外科治療は局所麻酔のもと、歯ぐきを切開し剥離します。歯槽骨(歯を支えている骨)に何らかの処置を行うかどうかは、歯周外科治療の内容によって異なりますが、切開と剥離、場合により縫合を行います。この点が歯周基本治療にはない違いといえます。
歯周外科治療には「組織付着療法」と「歯周組織再生療法」の大きく分けて2つあります。組織付着療法は、歯周ポケット内部の歯石や細菌を徹底的に取り除き、歯ぐきが歯根の表面に付着するのを促していきます。歯周組織再生療法では歯石や細菌の除去にくわえ、骨などの組織を再生させる材料を使って失われた組織を回復していきます。適応は限られますが、健康に近い状態に歯ぐきや骨を再生していくのが歯周組織再生療法の大きな特徴です。
さまざまな種類の方法がありますが、以下では主に行われる歯周外科治療について解説します。
1.歯周外科治療が適応となる場合
一般的な目安として、
①歯周基本治療を行っても、深い歯周ポケット(4mm以上)が残存している場合
②歯肉などの軟組織や歯槽骨などの硬組織の形態異常によりプラークコントロールが行いにくく、歯肉炎の再発が起こりやすい場合(歯ぐきが腫れたり出血がみられる場合)
③審美障害や適切な修復物の装着を妨げるような解剖学的形態異常などがあります。
2.フラップ手術(FOP)
フラップ手術とは、歯周基本治療(SC・SRP)を行いあまり改善が見られなかった場合に、歯ぐきを切開し歯ぐきを開き、歯根の先まで目視で見える状態にして細菌や歯石など歯周病の原因となる汚れを徹底的に除去する手術です。
治療の流れとしては、局所麻酔を行い歯ぐきを切開し歯ぐきを開き、歯根に付着した汚れ(歯石、不良肉芽)を歯科用器具を使用し除去を行い、最後に歯の根っこの部分を滑らかにして、歯ぐきを縫合し、抜糸をする流れとなります。つまり、歯周ポケットの深い部分まで見える状態にして細菌や歯石など歯周病の原因となる汚れをとっていくということです。
フラップ手術を行うことにより、歯ぐきが歯の根っこの面に再付着し、歯周ポケットが浅くなります。ただ、部位によっては治療後に歯ぐきが下がって歯が長く見えるというリスクもあるため、必ず歯科医師と十分に相談した上で手術を行うことをオススメします。
3.歯肉切除術
歯肉切除術は、歯周病や歯肉増殖症などで増殖した歯肉をメスやレーザーで切除し、深い歯周ポケットを改善するために行う歯周外科手術です。歯肉切除術を行うことにより、プラークコントロール(歯に付着する細菌の集合体であるプラークを除去したり、発生を抑えたりすること)のしやすい状態にして、炎症をおこした歯周組織を改善させます。また、審美的な問題にも適応され歯ぐきの高さが不揃いであったり、歯ぐきが厚く歯を覆い隠しているなどの症例にも適しています。治療の流れとしては、患者様の要望を含め、切除範囲や形を決定します。局所麻酔をして不要な歯肉をメスやレーザーを用い切除します。治療後、約2週間で治癒し安定します。 メリットとして、痛みやダウンタイムが少なく、費用も比較的安いです。ただし、後戻りのリスクがあるため、慎重に検討することが大切です。しかし、歯肉切除手術は、歯肉の位置が下がることで歯が長くなったように見え、歯根露出により歯がしみやすくなる(知覚過敏)ため、近年はあまり適用されません。
4.クラウンレングスニング(歯冠長延長術)
クラウンレングスニングとは歯冠長延長術(しかんちょうえんちょうじゅつ)ともいいます。歯茎や歯槽骨を削る歯周外科の治療領域で、その名の通り歯茎を少し下げて、その下にある虫歯や歯が割れている部分を歯茎の上に出す治療法のことです。 治療困難なむし歯を「抜歯をせずに歯を残す治療法」の1つです。
クラウンレングスニング(歯冠長延長術)を行って、歯茎の下にある虫歯や 歯が割れている場所を歯茎の上に露出させることにより、虫歯や割れた歯に土台を立てることが可能になり、精密に被せ物の型取りを行ったり、細菌感染を起こしにくい環境を作ったりすることができます。
結果として抜歯しないで被せ物を作ることが出来るだけでなく、そのクラウンレングスニングを行った歯の予後が良くなる(長持ちする)ことが期待できます。(症例によってはクラウンレングスニングを 行ってもうまく行うことができず、抜歯になることがありますので、しっかりした診査、診断が大切です。)
4-1.クラウンレングスニングを行う目的
・抜歯覚悟の状態の歯を残す
むし歯や歯が割れている部分の下にある健康な部分を歯肉の上に出ことができれば、抜歯をせずに歯を残すことが可能となる場合があります。
・審美性の確保
歯ぐきの高さを修正して歯の長さを揃えたり、形を修正することにより審美性を確保します。
・被せ物が何度も外れてしまう場合
噛合わせがきつくて極端に歯の高さ(長さ)が短く被せ物が外れやすい場合、クラウンレングスニングして歯の高さを確保することで被せ物が外れにくくなります。
4-2.クラウンレングスニングの注意点
・ 知覚過敏や根面カリエスの危険
クラウンレングスニングを行うと歯茎が下がってしまうので、知覚過敏や歯の根が露出して虫歯の危険が高くなります。(被せ物を行うことで改善できます)
・治療期間がかかる
歯茎を後退させた後は、数ヶ月かけて徐々に歯茎の位置が落ち着いてきます。十分な期間 歯茎の治りを待って被せる処置を行う必要があります。
5.GTR法(歯周組織再生誘導法)
GTR(歯周組織再生誘導法)は、歯周病によって溶かされた歯を支える骨(歯槽骨)や歯根膜などの歯周組織を再生させる歯周組織再生療法の一種です。GTRは、歯周ポケット内のプラーク(歯垢)や歯石を取り除き、骨がなくなってしまった部分に「メンブレン」という人工膜を挿入することで、歯周組織(歯槽骨や歯根膜など)の再生を誘導します。
一定期間、メンブレンを入れておくことで、歯茎からの侵入を防ぎながら、歯周組織が再生するスペースを確保することができます。骨は粘膜に比べて、再生までに長い時間が必要です。そのため、歯周組織が再生する際には粘膜から再生してしまいます。
粘膜から再生してしまうと、歯周病により歯を支えている骨が溶けてしまった部分が十分に再生できません。
治療の流れとしては、局所麻酔を行い、治療部分の歯茎を切開歯根面に付着したプラーク・歯石を除去骨が失われた部分を人工膜(メンブレン)で覆い、最終切開した歯茎を縫合し抜糸となります。
確保されたスペースに再生する歯周組織は、個人差はありますが1ヶ月1mm程度の速さで再生すると言われています。
6.歯周組織再生療法
歯周組織再生治療とは、歯周病によって失われた歯肉や歯を支える骨(歯槽骨)などの歯周組織を再生する治療方法です。歯周基本治療を適用しても歯周病の病変が残り、改善をしなければ口腔衛生のトラブルが起こり得るため適用されています。再生療法の一種で、歯周組織を蘇らせることが可能な治療です。重度の歯周病の治療や歯周病の再発リスクを抑えるのに有効な用法として用いられています。
歯周組織再生療法は、外科手術を伴う治療方法です。治療を実施する際には歯周病検査や基本治療を終えた上で、CTによる検査などを実施して適応可能かどうかを判断します。局所麻酔をして歯肉を切開し、プラークや歯石、病変の著しい組織などを除去します。その後、歯周組織の欠損の様子に合わせて歯周組織再生材料を使用して再生を促す下地を作り、縫合して手術を終えるというのが流れです。また、歯周組織再生療法では、歯周組織再生材料を使用して再生治療をおこないます。代表的な歯周組織再生材料として用いられているエムドゲインとリグロスについてご紹介いたします。
7.エムドゲイン療法
エムドゲインとは、歯科治療に必要な材料のひとつである、歯根面再生材料の一種です。歯根面再生材料は、歯の根っこの周りにある歯周組織を再生するために使用されます。 エムドゲインは、水溶性の歯根面再生材料で、傷ついた歯周組織の再生を促す成分が豊富に含まれています。歯周炎や歯槽膿漏などの症状を改善するために、歯医者によって処方されることがあります。 エムドゲインは、歯茎の中に直接注入されることが一般的です。歯茎に注入されたエムドゲインは、傷ついた歯周組織の細胞の再生を促し、健康な歯周組織の形成を助けます。治療後は、歯周炎の症状が改善され、歯茎の健康状態の向上が見られます。 一般的に、エムドゲインは歯周炎や歯槽膿漏の治療に用いられますが、歯の再生や修復にも使用されることがあります。そのため、歯医者によって患者さんに適した治療法が提供され、歯の健康を維持するために役立てられます。歯周病は歯と歯茎の境目にある歯周組織が炎症を起こす病気で、進行すると歯を失う原因となります。エムドゲインは、歯周組織を再生するために使われます。具体的には、歯周ポケットに挿入することで、歯周組織の再生を促します。また、エムドゲインを使った治療は、切開手術を伴わない非侵襲的な治療法であるため、歯周病治療において重要な役割を果たしています。治療期間は約6ヶ月で、歯周組織の再生が期待できます。エムドゲインは、歯周病治療において有効な薬剤であり、歯科医師が適切な治療法を選択することで、歯周病を早期に発見・治療することができます。歯周病に悩む方は、早期に歯科医師に相談して適切な治療を受けることが大切です。
治療の流れとしては、まず歯周病菌を一定期間抑制するための抗生物質を処方します。局所麻酔を行い、歯肉を切開します。歯肉に隠れていた歯の根(歯根部分)に付着している歯石などの汚れを取り除きます。その後歯周病により骨が溶けてしまった部分に、再生を促す専用の薬剤を塗り込みます。切開した部分を縫い合わせて、1週間ほど回復を待ちます。回復が順調に進んでることが確認でき次第抜糸します。治療後には、ブラッシングやフロスなどの継続的な歯磨き指導が必要となります。 エムドゲインは、歯周病の進行を止め、歯を支える組織を再生させることで、歯を守る働きがあります。定期的な歯科検診や適切な歯磨き・口内清掃を行うことで、歯周病の予防に努めることが大切です。なお、エムドゲイン療法は保険適用外となります。
8.リグロス療法とは
リグロス療法ですが、基本的にはエムドゲイン療法と同様に失ってしまった骨などの歯周組織を専用の薬剤を使って再生させる治療方法です。エムドゲイン療法との違いですが、次の3点となります。
①薬剤に使われている成長因子の違い
エムドゲインに使用されている成長因子は、豚の歯胚から抽出したエナメル基質タンパク質でできていますが、リグロスの場合「bFGF」という「ヒト」の成長因子を用いています。
②保険適用か自由診療(自費診療)であるかの違い
2016年からリグロス療法が保険適応となりました。それにより費用負担が軽くなり治療のハードルがだいぶ下がりました。
③これまでの臨床実績の違い
歯周組織再生療法においてはエムドゲイン療法の方が早くに開発され、今から約30年前(1990年代以降)から世界中の多くの国と地域でたくさんの臨床実績のデータが積まれてきました。一方で、リグロス療法はまだ比較的新しい治療法のため、臨床結果の実績がまだまだ十分に蓄積されていないという側面も否めません。
エムドゲイン療法と同じように、リグロス療法もすべての患者さんに治療を施せるわけではありません。リグロスの薬剤は液状となっており、治療しても薬剤が流れ出ないようなケース(骨の失われ方)であることが条件です。ですので、歯の全周で歯肉が下がっているケースや、幅広く骨が失われてしまった場合、薬剤が定着しないため治療の効果が期待できません。エムドゲイン療法と同様に、事前にしっかりと検査を実施し、リグロス療法の適応ケースであるか十分検討する必要があります。リグロス歯周組織再生療法の流れとしては、局所麻酔を行い、歯肉を切開します。歯肉に隠れていた歯の根(歯根部分)に付着している歯石などの汚れを取り除きます。歯周病により骨が溶けてしまった部分に、再生を促す専用の薬剤を塗り込みます。切開した部分を縫い合わせて、1週間ほど回復を待ちます。回復が順調に進んでることが確認でき次第抜糸します。
歯周外科治療が受けられない方
歯周基本治療の結果、あまり効果がなさそうだからといって、あらゆる方が歯周外科治療を受けられるわけではありません。歯周外科治療は、受ける側の条件によっては受け
られないこともあります。
2-1.全身的な病気のある方
脳梗塞や心筋梗塞、狭心症、コントロール不良な高血圧症や糖尿病を持っている方は、歯周外科治療を受けないほうが良いとされています。
2-2.プラークコントロールが悪い方
歯周基本治療が終わった後にプラークコントロールが悪い場合に、改善させることを目的に歯周外科治療は行われます。
しかし、あまりにもプラークコントロールが悪い方の場合、プラークは細菌の温床ですので、歯周外科治療を受けた後の治りに悪影響を及ぼす可能性があります。
プラークコントロールの状態次第では、歯周外科治療を受けられないことがあります。
2-3.喫煙者
タバコが、肺がんなど全身の健康上のリスクであることはご存知だと思います。
実は、歯周病にとってもタバコは有害です。
喫煙者は、タバコを吸わない人と比べると2〜8倍も歯周病になりやすいことが報告されています。
また、タバコは歯周組織の毛細血管を縮めてしまうので血液の流れが悪くなり、歯周病の治りを悪くしてしまいます。
歯周外科治療を受けた後も同じで、タバコを吸っていると治りが悪くなり、かえって歯周病の悪化を引き起こしてしまうリスクがあります。
前述した歯周外科治療の適応に当てはまっていたとしても、喫煙者の方は歯周外科治療の適応外となります。
Er:YAGレーザー
最後に当院で使用しているEr:YAGレーザーについてご紹介致します。
3-1.痛みの少ないレーザー治療
多くのレーザー波長の中で、Er:YAGレーザーが歯科医療に適している理由は、 水への高い吸収性にあります。Er:YAGレーザーは、水を含んだ生体組織に対する蒸散能力が高く、表層にのみ反応が起こり、熱の発生が微小なため、痛みが非常に少ないという特徴があります。
3-2.身体組織に負担の少ない治療
Er:YAGレーザーは、光エネルギーの吸収が表層に限定されて行われるため、CO2 Laser、Nd : YAG Laserに比べ、透過光による組織深部への影響が少なくてすみます。またエナメル質にクラックが起こりにくく、照射野周囲の熱拡散が少ないため、周囲組織への影響はほとんど有りません。
3-3.多くの使用目的と効果が薬事承認
硬組織疾患、歯周疾患、軟組織疾患のさまざまな使用目的と効果・効能が薬事承認されています。
インプラント周囲炎の治療過程において、インプラントに付着した歯石の除去が可能です。
骨形成、デコルチケーション等における骨の切開・蒸散が可能です。
まとめ
歯周病が進行してしまい、なかなか治らなくて諦めてしまうのではなく、抜かない選択も上記で説明した手術をすることにより可能ですので、十分に歯科医師と相談し、より健康なお口で生活できるようにしていきましょう。また、歯周外科治療を受けた後も、手術後の状態が維持できるように定期メインテナンスと自宅でのセルフケアは必須となってきます。
歯周病は、治療をしても再発しやすい病気ですがしっかりと自身のお口と向き合っていけば1本でも多くの歯を残すことができます。しっかりと自身のお口、歯と今後も向き合っていきましょう。