タバコがもたらす影響
タバコの煙には、5300種類もの化学物質でできており、そのうち有害物質が200種類以上、発がん性物質が50種類以上あります。そのため肺がんや食道がん、胃がんなどのがんをはじめ、脳卒中や虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や結核などの呼吸器疾患、2型糖尿病、歯周病など全身に様々な健康被害を及ぼします。その中でもタバコの三大有害物質である「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」と呼ばれる成分が、特に口腔内に悪影響を及ぼします。
ニコチン
ニコチンはアルカロイドの1つでタバコへの依存性を高める物質です。中枢神経に作用するため吸うとリラックスする効果があり、禁煙しようと思っていてもなかなかやめられないのはこれが原因です。非常に毒性が強く、血管を収縮させ栄養素・酸素・血液が流れにくくなり、歯ぐきが黒ずむことがあり、また心臓に負担をかけるなど健康リスクをもたらします。歯ぐきからの出血が起こりにくくなるため、歯周病にも気づきにくくなります。歯肉炎や歯周病にかかっていることに気づかず、口腔内のケアも十分できていないと、歯周病は進行し最終的には歯周病菌が骨に到達して骨が溶かされ、重度の歯周病になり歯を失うことになってしまいます。さらに、唾液の分泌量を抑える作用もあるため、口腔内が乾燥してしまいます。乾燥すると細菌が増殖し、口臭の原因になったり、プラーク(歯垢)や歯石が付きやすくなってしまいます。
タール
タールはいわゆる「ヤニ」のことで、たばこの煙には、不完全燃焼によって発生する燃焼副生成物が多数含まれており、一酸化炭素やガス状成分をのぞいた粒子状の成分の総体を、タール(たばこのヤニ)と称しており、煙に含まれる粒子状の成分でさまざまな有害物質や発がん性物質が多量に含まれています。タールにはニコチンをはじめとする有害物質や発がん性物質が数多く含まれており、その代表的なものにはベンゾピレン・芳香族アミン類・たばこ特異的ニトロソアミン類などがあげられます。その他にもがんを引き起こす可能性のある物質が約70種類含まれています。ヤニは歯の表面に茶色くべったりくっつき、その正体は汚れの塊です。粒子状なので歯にくっつくと歯がザラザラになります。プラーク(歯垢)はツルツルな歯よりザラザラの歯の方がくっつきやすく、プラーク(歯垢)がくっつきやすい状態をつくります。プラークが付着すると虫歯や歯周病・口臭のリスクが高くなります。電子タバコ(iQOSなど)の方が「タール」の分量が少ないので、電子タバコを吸うことで付着する着色汚れの軽減ができ、有害物質の量が減るので口腔内のダメージも大きく変わります。しかしタールが全く含まれていない訳ではないので、要注意です。
一酸化炭素
一酸化炭素は炭素が燃焼する際、酸素が不十分な環境で不完全燃焼を起こすと発生する気体のことをいい、炭素を含む物質が燃焼すると二酸化炭素(CO2)が発生しますが、酸素が不足している状態で不完全燃焼を起こすと一酸化炭素が発生します。血液中のヘモグロビンは酸素と結びついて全身に酸素を運ぶ役割をしていますが、一酸化炭素は酸素に比べて200倍以上もヘモグロビンと結びつきやすい性質を持っています。このため一酸化炭素があるとヘモグロビンは酸素と結びつくことができず、血液の酸素運搬能力が低下してしまい、酸素不足に陥ります。一酸化炭素はたばこの煙にも1%から3%ほど含まれています。ニコチン・タールとともにたばこから発生する有害物質の代表的なものとして「たばこの三害」などと呼ばれます。一酸化炭素とヘモグロビンが結びついた一酸化炭素ヘモグロビンの体内での半減期は3-4時間程度なので、頻繁に喫煙する人は慢性的な酸素欠乏状態となり、ひいては赤血球が増えるなどの影響もあります。このため一酸化炭素は血管の動脈硬化を促進するともいわれています。
喫煙と虫歯の関係が深い理由
唾液が減少する
唾液は食事を円滑にしやすくする作用の他、抗菌作用や緩衝作用、自浄作用、免疫作用といったさまざまな働きがあり、口腔内を清潔に保つ役割を担っています。しかし、タバコに含まれているニコチンという成分の作用によって血管が収縮し唾液の分泌も減少してしまいます。ニコチンの作用により唾液が減少することで働きが弱くなり、本来の唾液の作用が発揮できず虫歯のリスクが高くなります。
口腔内の免疫が低下する
喫煙時に発生する煙には、さまざまな有害物質が含まれており、その一種である一酸化炭素は、全身の組織への酸素供給を妨げるものであり、本来は決して体内に取り入れるべきものではありません。一酸化炭素が体内に入ると、歯茎や口腔粘膜なども酸欠または栄養不足の状態になってしまい、細菌と戦うための免疫力も下がります。つまり、虫歯菌に感染しやすい口内環境になるということです。また喫煙で免疫力が低下すると、虫歯だけでなく風邪やインフルエンザなどのリスクも高くなるため、注意が必要です。
ヤニが細菌を誘発する
喫煙をすると歯の表面にヤニという成分が付着します。ヤニはいわゆるタールのことで、タバコの煙のうち、一酸化炭素やガス状成分を除いた粒子状の成分で、ネットリとした植物性の樹脂です。歯の表面にヤニが付くと、プラークが形成されやすくなるだけでなく、虫歯菌が繁殖する場所にもなり、虫歯のリスクは上がります。
その他タバコが口腔内にもたらす影響
歯周病
歯周病は歯を失う原因の1つといわれており、タバコを吸うと歯に汚れが付きやすくなり、また唾液の自浄作用も弱まるため、歯周菌が活発に活動しやすくなります。そのため喫煙者の方は非喫煙者に比べ歯周病にかかりやすく、悪化しやすいことが分かっています。ニコチンの作用でにより血管が収縮し、血流量を減少させ出血しにくくなるので歯周病に気づきにくく、重症化しやすくなり、同時に血液循環が悪化して歯茎に十分な酸素が行き渡らなくなり歯周病の原因となる菌が繁殖しやすくなります。口は、体の中で最初に喫煙の影響を受ける部分であり、口の中に入るとたばこの煙や成分が粘膜や歯ぐきから吸収されます。細菌が産生する毒素は歯周ポケットをさらに深めるとともに歯を支える骨を溶かし、進行すると歯が動揺するようになり、またさらに進行すると歯が失われます。歯ぐきからの出血は、炎症という正常な生体防御反応のサインですが、喫煙者では血管収縮による血行不良により炎症が抑えられるため、歯ぐきの出血や腫れが現れにくいことが特徴です。歯周病は歯茎の病気で、早めに発見することで適切な治療が可能となりますが、タバコを吸っていると出血や歯茎の腫れといった歯周病を見分ける症状が出にくくなります。歯周病が進行すると腫れや出血で気づくことが多いですが、喫煙されている方は白血球の働きが抑制されており、治りが遅くなります。歯周病の基本治療として歯みがきと歯石を取り除きなどが行われますが、喫煙者には十分な効果が期待できません。日本歯周病学会では、喫煙は歯周病を予防や治療をさまたげる原因であるという認識に基づき、歯みがきと歯石除去を基本に、喫煙者の歯周治療には禁煙が必要であるとしています。禁煙すると歯ぐきの状態の回復、歯を支える組織の状態が改善、免疫や細胞のはたらきが高まるため、歯周病のリスクが低下し治療効果が上がることが明らかになっています。データによると、歯周病にかかる危険は1日10本以上喫煙すると5.4倍、10年以上喫煙していると4.3倍にもなると言われております。
歯ぐきの着色
もともと健康な歯茎は毛細血管が透けておりピンク色をしていますが、喫煙することで、タバコに含まれる一酸化炭素で歯茎の組織が酸欠状態になり、ニコチンによって毛細血管が収縮してしまいます。すると血流が悪くなり、同時に血管内を流れる血の量が少なくなるため、歯茎が黒ずんで見えるようになります。また、タバコを吸うと有害物質から歯茎を守るためにメラニン色素が作られます。通常、メラニン色素の働きは体内のビタミンCによって抑制されますが、タバコを吸うと体内のビタミンCが大量に消費されるため色素沈着がおこりやすくなります。喫煙歴が長くなるほど、歯茎はどんどん黒ずんでしまいます。一度、歯ぐきが黒ずんでしまうと自然に治すのはなかなか難しい為、改善したい方はガムピーリングやレーザーでの治療が必要になります。当院でも喫煙がきっかけで歯茎が着色された方のガムピーリングを行っておりますので気になる方はぜひご相談ください。
口臭
タバコに含まれる三大有害物質のニコチン、タール、一酸化炭素が口臭の悪化を促進します。特にタールはネバネバとした粘性の高い物質のため、歯や舌の表面、歯垢、歯石などに「ヤニ」としてこびりついて蓄積されることで、独特な臭いの口臭を発します。
口腔内の癌
タバコに含まれる有害物質は、口腔内の細胞を変性させ、がん化を促進させるため、喫煙者は、口腔がんのリスクが非喫煙者に比べて数倍高いとされています。口腔内のガンには舌がん、歯肉がん、頬粘膜がんなど様々な種類がありますが口腔内のガンを発症する方の多くが喫煙者です。口腔がんの中でもっとも罹患数が多く半数以上を占めるのが舌がんです。舌がんの初期症状は、舌にしこりや炎症ができる、赤や白の斑点、痺れがある、口内炎が治りづらいことなどがあげられます。舌がんが進行すると痛みや出血が続いたり、口臭が強くなることもあります。口腔内のガンは内臓疾患ではないので見落とされやすく、且つ進行が早いため、ただのできものや口内炎だと考えて放置していると、身体中に転移してしまい、死に至る確率も高いとされています。
受動喫煙にも注意
喫煙者が吸っている煙だけではなくタバコから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチンやタールはもちろん多くの有害物質が含まれています。本人は喫煙しなくても身の回りのたばこの煙を吸わされてしまうことを【受動喫煙】と言います。WHOによると、毎年約600万人(6秒に1人)がタバコによって命を奪われており、そのうちの60万人(1分に1人)は受動喫煙による被害とされています。受動喫煙による健康被害は癌やSIDS(乳幼児突然死症候群)などがあり、また、口腔内への影響も喫煙者がいない子供に比べると、3歳までに虫歯になるリスクが最大約2倍になるという研究結果もあります。
タバコは治療の妨げになることも
喫煙は創傷部位の治癒の遅れや術後の合併症のリスク増大にも繋がります。タバコに含まれるニコチンには血管収縮作用があり、オペ後などこれが原因で栄養や酸素が行き渡らず、周囲の細胞が貧血状態となり傷が治りにくくなります。そのため、うまく骨が結合せずに、インプラントが脱落する可能性が高くなります。またニコチンは唾液分泌抑制作用もあり、唾液の働きの1つである自浄作用が機能しなくなると口腔内に歯周病菌が増殖しやすい環境になります。またタバコは白血球数を減少させ、同時に免疫力を低下させるため、感染症を引き起こしやすくします。特にインプラントなど外科処置後は傷口から細菌感染を起こしやすいので、処方された抗生剤などを服用し、アフターケアを行いましょう。
定期的なクリーニングも重要
禁煙することで、「歯周病のかかりやすさ」は4割も減ります。タバコはお口への悪影響のみではなく、全身への悪影響も多数報告されており、肺がんをはじめとする各種がん、心臓疾患、気管支炎・気管支喘息などの呼吸器疾患など、タバコはまさに百害あって一利なしです。喫煙されてる方は勿論、されてない方も定期的なクリーニングや歯周病検査が重要になります。歯磨きは1日2~3回、フロス(糸ようじ)を1日1回行うことで口腔内に溜まったプラーク(歯垢)をきれいにすることができます。
エアフローを使った歯のクリーニングも
喫煙される方は特に歯の表面にヤニがつきやすく、ご家庭でのブラッシングではなかなかヤニを完全に取り切ることは難しいです。当院では歯のクリーニングの際、エアフローを用いたクリーニングも提供可能です。エアフローとは目に見えないほどの細かいパウダー粒子を放出する機器で、歯にジェット噴射すると表面がキレイになります。着色汚れだけでなく、プラーク(歯垢)やバイオフィルムなどの除去にもおすすめです。目に見えないほどの細かい粒子で汚れを取っていくため、歯や歯肉にダメージを与えることなく、汚れのみを短時間でキレイに落とすことが可能です。
長らく歯医者に行かれていない方はこの機会に一度受診し、ご自身の口腔内をチェックしてもらいましょう。